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東京高等裁判所 昭和61年(ネ)527号 判決

控訴人(原告) シヤープフアイナンス株式会社

右代表者代表取締役 土屋誠治

右訴訟代理人支配人 松野浩二

右訴訟代理人弁護士 清水幹裕

被控訴人(被告) 長坂隆四郎

被控訴人(被告) 菅野律子

右両名訴訟代理人弁護士 野村英治

主文

一、原判決を次のとおり変更する。

1. 被控訴人らは被訴人に対し、各自五八九万八〇〇〇円及びこれに対する昭和五八年三月一五日から完済まで日歩四銭の割合による金員を支払え。

2. 控訴人のその余の請求を棄却する。

二、訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

三、この判決は控訴人勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、控訴人

1. 原判決を取り消す。

2. 被控訴人らは控訴人に対し、各自六〇四万八〇〇〇円及びこれに対する昭和五八年三月一五日から完済まで日歩四銭の割合による金員を支払え。

3. 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

4. 仮執行宣言

二、被控訴人ら

1. 本件控訴を棄却する。

2. 控訴費用は控訴人の負担とする。

第二、当事者双方の主張は、左記附加、訂正のほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1. 原判決二枚目表八行目「賃貸」の次に「(リース)」を加える。

2. 同二枚目裏一〇行目を「2 東興は、昭和五八年二月七日支払分のリース料の支払をしなかった。」と改める。

3. 同三枚目表九行目「残存リース料」の次に「相当の」を加え、同裏初行「支払」を「連帯支払」と改める。

4. 同三枚目裏八行目「請求原因3」を「請求原因2、3」と改める。

5. 同四枚目表三行目及び末行「昭和五九年」を「昭和五八年」と改める。

6. 原判決別紙物件目録中「復写機SF-750」を「複写機SF-750」と改める。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

一、〈証拠〉によれば、控訴人は昭和五七年九月二〇日、東興との間で、本件各物件を、その主張の約で賃貸(リース)する旨の契約を締結し(右のうち、原判決別紙物件目録(一)記載の物件(以下「本件(一)の物件」という。同(二)及び(三)の物件についても同じ。)を賃貸(リース)する旨の契約を締結したことについては当事者間に争いがない。)、同年九月三〇日東興にこれらを引き渡した事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

二、そして、〈証拠〉によれば、東興は昭和五八年二月七日の期日に約定のリース料の支払を怠ったので、控訴人は東興に対し、同年三月九日到達の書面をもって前記の特約に基づき本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした事実が認められる。

三、しかるところ、〈証拠〉によれば、被控訴人らが昭和五七年九月二〇日、本件各物件にかかる賃貸借契約に基づき東興が控訴人に対し負担する債務を連帯保証した事実(本件(一)の物件に関して連帯保証した事実については争いがない。)が認められ、これに反する証拠はないので、被控訴人らは控訴人に対し、後記損害額を支払うべき義務がある。

四、そこで、被控訴人らの抗弁について判断する。

アイコーが、昭和五八年二月三、四日頃東興から本件(一)の物件を引き揚げたことは当事者間に争いがなく、また、控訴人が同月四日頃本件(二)、(三)の物件を東興からこれらを借受け使用中のYSトレーデイングの事務所内から引き揚げ、同月一〇日頃にはアイコーから本件(一)の物件の引渡しを受けた事実については、控訴人の自認するところである。

被控訴人らは、右のとおり賃借物件が引揚げられその使用ができない以上、賃借人には賃料支払の義務はなく、したがって債務不履行を生ずるいわれはない旨主張する。しかしながら、本件契約は前掲甲第一号証によって認められる契約内容に照らし、いわゆるフアイナンス・リース契約であると認められるところ、右契約においては賃貸借契約の形式を採ってはいるものの、物件の購入使用を希望するユーザー(東興)に代わって、リース業者(控訴人)が販売業者(アイコー)から物件を購入のうえ、ユーザーに長期間これを使用収益させ、右購入代金に金利等の諸経費を加えたものをリース料として回収する制度であるから、その実体はユーザーに対する金融上の便宜を付与するものにほかならない。右の点に着目すれば、リース料の支払債務は契約の締結と同時に全額につき発生しているが、ただそれが月々のリース料(賃料)支払という方式で期限の猶予が与えられているにすぎないものと考えられる。そうすると、ユーザーのリース料支払はリース物件の使用収益とは対価関係にあるものとは言えないのであるから、特段の事情(例えば、引揚げを相当とする理由がないのに一方的にリース物件の引揚げがなされるなど信義則上リース料の支払を求めるのがユーザーに酷と考えられる場合)のない限り、リース料の支払に対応する期間物件の使用ができない場合でも、ユーザーは所定のリース料を支払うべき義務を免れないものと解せられる。〈証拠〉によれば、控訴人及びアイコーは昭和五八年二月二日頃に東興が手形不渡りを出し事実上倒産したことを知ったので、物件の保全と債権回収のため本件各物件を引き揚げたことが認められ、右事実関係の下では本件各物件の引揚げには相当の理由があるものということができ、本件では右にいう特段の事情があるものとはいえない。

それゆえ、被控訴人らの右抗弁は採用しない。

五、すすんで、損害額について検討する。

本件賃貸借契約が賃借人の債務不履行により解除された場合、賃借人は賃貸人に対し、残存リース料相当の損害金を支払う義務を負担すべきことは前記のとおりであり、〈証拠〉によれば、右解除当時における残存リース料は六〇四万八〇〇〇円であることが認められる。ところで、〈証拠〉によれば、本件契約には、解除後にユーザーからリース物件の返還があった場合には、右の損害額から物件返還時におけるその評価額が控除されるべき旨の定めがある(第二一条)ところ、〈証拠〉によれば、物件返還時における本件物件の評価額は合計で一五万円程度であったものと認められ(本件各物件は、オフイスコンピューター、複写機及びタイプライターであって、いわゆる汎用性に乏しく、かつ技術革新による経済的陳腐性の高い性格上、右のような評価となるのもやむを得ない。)、したがってその損害額は、五八九万八〇〇〇円とするのが相当である。

六、以上の次第であるから、被控訴人らは控訴人に対し、連帯保証人として本件賃貸借契約の解除に基づく損害賠償金五八九万八〇〇〇円及びこれに対する弁済期後の昭和五八年三月一五日から完済まで約定の日歩四銭の割合による遅延損害金を連帯して支払うべき義務がある。

七、よって、控訴人の本訴請求は被控訴人らに対し五八九万八〇〇〇円及びこれに対する昭和五八年三月一五日から完済まで日歩四銭の割合による金員の連帯支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却すべきものであるところ、これと趣旨の一部を異にする原判決を主文のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西山俊彦 裁判官 朝岡智幸 武藤冬士己)

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